結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
「彼 いい人ね……真摯な態度っていうのかな
ちょっと遠野のお義父さんに似てない?」
「似てるよ 同じような雰囲気を持っている」
「そうでしょう 私もそう思った それに顔もどことなく似てるのよね
顎の辺りのラインとかが ねぇ じゃあさ
賢吾とも似てるってことでしょう」
「冗談言うなよ どこが似てるんだよ」
似てるわよと実咲は なおも食い下がってくるので強行に否定したが
実は僕自身同じことを思っていた
葉月のヤツ 親父に反抗しながら同じような男を選んだのか
”葉月ちゃんって お父さんっ子ね” と周りから羨ましがられるほど父と娘は
仲が良く そろそろ友人達が親と並んで外出するのを嫌がる時期になっても
父と出かけるのを喜んでいたのが 高校生になり 急に父親を疎ましく
感じだしたのか 父が話しかけても煩わしげに返事をするのだと
朋代さんがこぼしていたことがあった
社会人になり父と娘は同じ職種に就いたため 何かと相談を持ちかける葉月に
嬉しそうに対応している姿が見られるようになったと聞いて安心していたのに
葉月の結婚話が浮上してから またも反目しあったままになっている
それにしても 父は何に拘り 葉月の結婚に反対しているのだろうか
先ほどの二宮君の言葉にもあったように 部下のどんな意見も耳を傾け
信頼を得ている人なのだ
小さい頃 他愛のない僕の話さえも 父は面倒がらずに聞いてくれた
それなのに 娘との話し合いで感情的になり 結婚は早すぎる 順序が違うと
やぶからぼうに反対するのが納得いかなかった
僕は 父の本質を見抜けないもどかしさを感じていた
電車の窓に目を向けると 夜空に大きな月が見えた
都会の明るさにも負けないほどの まばゆいばかりの光を放つ月を
以前どこかで見たような気がしたのだが
記憶の引き出しのどこにしまったのか なかなか思い出せずにいた