結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】


覚悟って言われても これ以上何を言えばいいのかと 葉月が朋代さんに

詰め寄っていたが さすがに二宮君は 父の真意を汲み取ったようで 

唇を噛みしめたまま俯いてしまった
 


「親父は何が何でも反対してるわけじゃない 二人ともそれはわかるだろう」


「じゃぁどうすればいいの わかるなら教えてよ」


「それは自分で考えろ」


「僕らには まだお父さんを納得させるだけの誠意が足りないんだと思う 

結婚することへの責任ができてないってことだと思うよ」



二宮君は 取り乱した葉月に諭すように話しかけると 出直してくるよと

立ち上がり 失礼しますと一礼した



「お父さんも私も 結婚を許さないとは一言も言ってないのよ 

子どものことも それであなたたちを責めたりしてないでしょう 

むやみにダメだって言ってるんじゃないの 

許すにはそれなりの理由が必要なの」


「許す理由ですか……」


「そう 父親には自分を納得させる理由がいるの 

二宮さん 葉月ともう一度よく話しをしてね 

それから 主人の気持ちが落ち着くまで少し待ってください」



朋代さんの静かな言葉に 二宮君は黙って頷いた 

父を説得できる自信などないが 僕になら父も素直な気持ちを話して

くれるのではないだろうか

母親の言葉に感極まったのか 唇を噛みしめて涙をこらえている葉月の肩に

手をおいて 親父と話してくると告げ 僕は父の書斎へ向かった

賢吾です そう言うと あぁ……とドア越しに返事があった



「葉月たち もう一度二人で話し合うそうだ」


「そうか……難しいものだな 親の考えを押し付けるわけじゃないが 

もどかしくてね」


「わかるよ」


「もう少し世間を見て経験をして それからと思っていたんだ それが……」


「いきなり子どもができた だもんなぁ そりゃ驚くよ」



僕の笑いに父もつられたのか ふっと漏らすような笑いが聞こえた



「僕のときは反対しなかったね」


「おまえと実咲さんのことは ずっと見てきた安心感もあった 

結婚するまでに社会人としての自覚もできていた 

だが 葉月には自覚や責任と言ったものが感じられない 賢吾とはそこが違う」


「そうだけど まだ若いじゃないか これからわかることもあるよ」


「若いのは理由にならない 葉月ときたら自分の主張ばかりだ 

結婚は当人同士が良ければ それでいいものではない

子どもの事だって 朋代に言われてようやく気がつくほどだ 

こんな調子で結婚して上手くいくわけがない」



父は葉月に言えないことを僕に言っているのだろうか

言いたいことはわかるが 多少意地になっているようにも感じられた




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