いつか、この想いを。
「とにかく、本当にありがとうございました。」



そう言ってまたペコリと頭を下げた。



「そんなに大事なのか?そのハンカチ。」



まるで話を切り上げようとするのを阻止するみたいに、先生が質問してきた。



そんなの先生には関係ないじゃないか。



と、思いつつもお人よしな私はつい答えてしまう。



「…大事ですよ。」






『───…忘れないで、唯……。』




今も耳に残る、あの人の声。



静かに込み上げる想いを心の奥底にしまいこみ、私は先生を見上げた。



「…じゃ、私もう授業行かないといけないので。」


「あ、ああ。悪かったな、引き留めて。」


「いえ、こちらこそありがとうございました。」





ハンカチを握りしめながら、半ば逃げるようにその場を後にした。



……先生の顔を正面から見た時、



その瞳に心を見透かされそうな気がして、少しだけ怖いと感じたから。
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