もっと美味しい時間  

今度は私がキッチンを覗く。

「私が淹れようか?」

「いいよ、俺がやる」

意外な答えに、ちょっと驚いた。
だっていつもの慶太郎さんなら、「そうか」と言って、あまり自分からは動かないのに……。少なからず反省してるのかなぁ。

「百花はカフェオレでいい?」

「うんっ」

今日は疲れを取りたいから「甘めでお願い」と頼むと「太るぞ」と一言、意地悪な返答。いや、そんなに反省してないな……。

でもよく見てみると、インスタントではなくドリップしてコーヒーを淹れている。

「珍しいこともあるもんだ……」

聞こえないくらい小声で言ったつもりが、最近の私の声はちょっと大きくなったみたい。

「そんなこと言うなら、お前の分は作らない」

拗ねたようにそう言うと、マグカップをひとつ片付けてしまった。
子供じゃあるまいし、そんな意地悪しなくたって……。
悲しくなって少しずつそばに寄って行くと、慶太郎さんの背中にピタっとくっつく。

「ごめんね。カフェオレ飲みたい……」

少し甘えた声を出して背中におでこをつけると、慶太郎さんが身体を反転させた。

「なら、ごめんなさいのキスは?」

「それは無理っ!」

「ケチっ!!」

ケ、ケチだとぉ~。
まったく、もう一回お風呂に沈めようか……。




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