もっと美味しい時間  

「リビングで待ってる」少し強い口調で伝えると、キッチンを出た。

夕方の事を忘れた訳じゃないけれど、二人で色々話して一緒の時間を過ごしたからか、二人とも気持ちに余裕が出てきたみたい。
これで明日、綾乃さんにきっちり話をつければ、今までどおりの私と慶太郎さんに戻れる。
さあっ、明日は決戦日。綾乃さんとの戦いに備えて、今晩は早く寝なくちゃ。
カフェオレを飲んだら、すぐにベッドに潜り込もう。

「百花。はい、どうぞ」

いつの間にか目の前に来ていた慶太郎さんに、マグカップを渡される。

「ありがとっ」

「ガッツポーズなんかしてて、どうした?」

自然と身体に力が入ってたみたい。ちょっと失敗……。

「何でもない」

それだけ言うと、なみなみに注がれたカフェオレを口に含む。コーヒーの苦味と砂糖の甘みが、同時に口の中に広がった。
お風呂上りの身体に、ゆっくり浸透していく。

「幸せ……」

目を瞑りそう呟くと、隣りに座った慶太郎さんに肩を抱かれ引き寄せられた。

「わぁっ!」

いきなりのことで、マグカップからカフェオレが零れそうになる。身体でバランスを取り何とか零れずに済むと、テーブルに置く。

「慶太郎さん、危ないよ」

「悪い。でも、できるだけ傍に寄り添っていたいんだ。そうじゃないと、またどこかに駆け出していきそうで心配になる」

「う、うん。ごめん……」

別に、好きで駆け出してるわけじゃないんだけど……。
何故だか申し訳ない気持ちが膨らんできて、謝ってしまった。




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