もっと美味しい時間  

私だって慶太郎さんのことで何かあるたびに、そのことから目を逸らすように逃げるのはダメだって分かってる。
でもね、心と身体は同じようには動いてくれない。
離れてみて、初めて知った。
どれだけ愛の言葉をもらっても、俺のことを信じろと言われても、離れている距離の分だけ不安は募ってしまうものなんだと……。

自分が思っていた以上に “遠距離恋愛” は難しい。

「なぁ百花」

「なに?」

「お前こっちに……。いや、何でもない」

切なそうに目を閉じ、そう呟く。
声が小さすぎて、最後の言葉が聞き取りにくかった。
お前がどうとか……。

何で言おうとした言葉を飲み込んでしまうの?
私には言えないこと?

それが聞きたくて顔を覗きこむと、力無さげに微笑んだ。

「別に大したことじゃない。だから、そんな顔するな。百花の負担になるようなことは、今後絶対にしないって決めたんだから……」

私の顔を見て言っているのに、まるで自分に言い聞かせているような言葉。
そして力強く抱きしめられてしまうと、もう何も言えなくなってしまった。

ちょっとズルい……。
でも、これ以上何か聞いたって、答えてくれるような人じゃないし……。

しょうが無く聞くのを諦めると、私を抱きしめ背中を擦る手から、ある想いを感じてしまう。

---慶太郎さん、もしかして寂しい?---

いつもの私を抱くときにするそれと今とでは、明らかに身体に伝わる想いが違っている。








< 125 / 335 >

この作品をシェア

pagetop