もっと美味しい時間
いつも気丈に振舞い、弱いところを見せるのが苦手な慶太郎さん。
それでも付き合いだした頃に比べたら、甘えたり弱い部分を見せてくれるようにはなったんだけど……。
“男たるもの”みたいな所がある人だからなぁ。素直に「寂しい」とは言ってくれないか……。
よく考えてみたら、慶太郎さんは私を一緒に大阪へ連れて行きたかったんだよね。それを私が『まだ仕事がしたい』って断ってしまったんだ。
もし慶太郎さんが本当に“寂しい“ と思っているなら、私はどうしたらいいんだろう……。
慶太郎さんに抱かれながら考えていると、ふと昔、母としたある日の会話を思い出した。
私の父は、全国に支店を持つ大手デパートに勤務している。
まだ私が幼い頃は転勤が多く、そのたびに母と私は引越しを余儀なくされた。
小学校を何回も転校し、親友と呼べる友達も作れないことに、ある日私の不満が爆発した。
『また転校なんて、もう嫌っ! パパがひとりで行けばいいんだっ!!』
泣いてそう叫ぶ私に、母が優しく寄りかかった。
『百花。あなたには本当に申し訳ないと思ってる。でもね、ママはパパが大好きなの。大好きなのに離れちゃうなんておかしいでしょ? 百花はパパが嫌い?』
『……大好き……』
『だったら一緒にいなくっちゃ。離れて暮らしていたら、大好きな想いがすぐに伝えられないでしょ? お互いにその気持ちが伝えられないと、寂しくて不安になって、どんどん心が離れていっちゃうの。まだ百花は小さいからよく分からないかもしれないけれど、大人になればきっと分かる日が来るわ』
そう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
百花の寂しさは、パパとママが愛情をいっぱい注いで埋めてあげるって……。
その時の温もりは、今でも忘れない。
そして、その言葉通り、私は二人からたくさんの愛情を受け、その日以降寂しいと思ったり不満を漏らすことはなかった。