もっと美味しい時間  

「け、慶太郎さんっ! この手、違反行為っ!!」

今にも私の胸を揉みしだこうとしていた手を、思いっきり引っ叩く。
部屋中に充満していた甘い香りが、一瞬にして蹴散らされた。

「……っとに、タイミング悪いなぁ」

私の携帯を手にすると、不満そうな顔をする。

「アラームのせいにしないでっ。朝から何してるのっ!!」

「それは、お互い様だろ。ひとりで良からぬこと想像して、モゾモゾしてたくせに」

人を小馬鹿にしたようにニヤリと笑うと、私のおでこをピンっと弾く。
慶太郎さんは私に引っ叩かれた手を、私は弾かれたおでこを摩っていると、どちらからともなく笑い合ってしまった。

今日はこれから綾乃さんと対峙するというのにこの余裕感は、慶太郎さんに愛されていることが身体いっぱい感じられるから。
今、目の前に広がっている慶太郎さんの笑顔は、私だけのもの。

誰にも渡さないっ!!

バサッとベッドの上に立ち上がると、ウルトラマンよろしく拳を真上に突き上げた。
さぁ来い、綾乃っ! 今日の私は、ただのちっちゃい小娘じゃないんだからっ!!
フフフッと、ちょっと不気味な笑いを漏らすと、慶太郎さんの間の抜けた声。

「も、百花、気合入ってるところ悪いんだけど……。パンツ丸見え」

えっ? パンツ??
ゆっくり振り返り、慶太郎さんの顔を見てから自分の下半身に目を下ろす。
ちゃんと穿いて寝たはずのモコモコ短パンのゴムが緩んで、ちょうどパンツが丸見えの位置までズリ落ちていた。

「イヤーーーッ!! 慶太郎さんのバカっ!!」

何の関係のない慶太郎さんを罵ると、短パンを持ち上げて寝室から逃げ去った。



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