もっと美味しい時間  

それはチュッと音を立てて唇を吸い上げるだけのキス。
自分から舌を差し入れるような、ハードなキスはまだ出来ないでいた。

「何? そんだけで満足?」

分かってるくせに、意地悪な態度を取る慶太郎さん。
もう何度も身体を重ねていたって、恋愛初心者には変わりない。恥ずかしいものは恥ずかしいからしょうがないじゃない。
でも慶太郎さんは、時々こうやって私をいじめる。
その時にニヤリと微笑む顔は、悪魔そのものだ。

「満足ではないけど……」

「だったら頑張れよ。ほらっ」

ほらって唇突き出して、簡単に言わないでほしい……。頑張って出来るくらいなら、いっつかやってるっていうのっ!!
でも私の唇は私より貪欲で、もっともっとと訴えていた。
私の意志に反して、突き出されている魅惑の唇に誘われるように近づいていってしまう唇。
妖しい光を放って見つめてくる慶太郎さんの瞳に、うるさいくらいに大きくなっていく心臓の音。

コラッ静まれ心臓!  慶太郎さんにドキドキがバレちゃうでしょっ!!

でもそんな私のお願いなんて、心臓が聞き入れてくれるわけもなくて……。
どんどん速く大きくなる鼓動に気を取られていたら、いつの間にか慶太郎さんに唇を吸われていた。

「もう夜まで待てないけど、いい?」

少しだけ唇を離し、艶を帯びた声で囁く。
熱く火照りはじめた身体は、私を簡単に頷かせてしまう。
私の答えなんて分かっていた慶太郎さんがニヤリと不敵に笑うと、震える私の唇を熱い唇で塞いだ。





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