もっと美味しい時間
「慶太郎、うるさい」
穏やかに窘められると、二人で肩をすぼめた。
中身の詳しい内容は知らない。
“連絡先”が書いてあるとは聞いているけど、京介の様子からそれ以外のことも書いてありそうだった。
「悪い。ちょっと席外すわ」
顔色一つ変えずにそう言うと、あっという間に部屋から出て行ってしまう。
「京介、どうしちゃったのかなぁ……」
「京介と若月……。いいかもしれないな」
いいかもしれない? 何が?
首を傾げて慶太郎さんの顔を覗きこむと、フッと笑ってから私の頭を撫でた。
「百花は楽しくなるかもな」
「何が?」
「さぁ、何でしょう?」
面白そうに、質問を質問で返してくる慶太郎さん。
全く意味が分からないけれど、慶太郎さんの顔を見る限り、悪いことではなさそうだ。
「さぁ、百花ちゃんにはいっぱい食べてもらわないと」
春さんが次から次へと美味しそうなご馳走を、テーブルいっぱいに並べてくれる。真ん中の鉄板には香ばしい匂いを漂わせて、お好み焼きが焼かれていた。
「いっぱい食べて、大きくなれよ」
お皿におかずを山盛りに乗せると、私の目の前にドンッと置いた。
「今更、どこを大きくしろと……」
「胸……とか?」
ニヤリと笑い、私の胸をツンツンとつつく。
「け、慶太郎さんっ!!」
それを見ていた春さんが、肩を震わせながら立ち上がると、「仲が良くて何より」と一言いって部屋から出て行った。
春さん、見てたのね……。
溜め息をついて慶太郎さんを見れば、美味しそうにお好み焼きを頬張っていた。
「旨いぞ、百花っ」
そう言って顔に満面の笑みを湛える慶太郎さんには、やっぱり勝てそうもない。
そして私も、慶太郎さんに負けじと口いっぱい頬張った。