もっと美味しい時間
目が覚めるとそこはサービスエリアで、車は駐車場に停まっていた。
運転席に、慶太郎さんの姿はない。
身体を起こし窓の外に目をやると、両手にカップを持って歩いてくる、慶太郎さんを発見した。
そのままぼんやりした目で慶太郎さんの姿を追うと、女性二人が何やら話しながら慶太郎さんに近づいた。
「何、あれ?」
思わず、声のトーンが低くなる。
二言三言話したかと思うと、慶太郎さんがこっちを指した。
同時に、彼女たちも振り返る。
そして私に気づくと二人でコソコソと話し、慶太郎さんに手を振りながら離れていった。
「また逆ナンか……」
この前の大阪駅の時といい、慶太郎さんは背が高くてよく目立つ。
それに加えてイケメンときたら、世の女性達が放っておくはずがなく……。
きっと仕事関係でも、寄ってくる女性は後を絶たないだろう。
そんな素敵な人が私の彼で婚約者なのは、最高に幸せで嬉しい。でもその反面、時々不安で苦しくなって、私なんかでいいのかなぁと思ってしまう。
結婚すれば、こんな気持ちも無くなるのかな……。
ボーっと外を眺めていた視界に、いきなり慶太郎さんの顔がドアップで現れ驚いてしまう。
「起きてたんだ。はい、コーヒー」
ドアを開けた慶太郎さんが、熱いコーヒーを手渡してくれる。
「あ、ありがとう」
今まで考えていたことを悟られたくなくて笑顔を見せると、慶太郎さんが苦笑した。
「百花は思ってることが、すぐ顔に出るな。今の見てて『私なんかで…』とか考えてたんだろ?」
「うぅっ……やっぱり分かっちゃうんだ」
当たり前だろ───
優しい声とともに、慶太郎さんの大きな手が頬に触れた。