もっと美味しい時間
俺ももう30。いい歳の男だ。今までに、彼女の一人や二人いたっておかしくない。そのことを百花が知ったとしても、今の関係が崩れることもないだろう。
でも京介は、京介だけは百花に近づけたくなかった。
他のどんなことよりも、京介が一番厄介なんだ。
こと、女に関しては……。
足早にエントランスホールを抜け、自動ドアが開くと、目の前に黒塗りの車が停まっている。
「慶太郎っ、会議に間に合わなくなるぞっ!」
「黙れっ!!」
強気にそう叫ぶと、助手席へと飛び乗る。
「何怒ってるんだよ」
「百花にどこで会った?」
「またその話かよ……。昨日、お前にタクシー手配するように頼まれただろ。時間あったし、どうせ一緒んとこ帰るんだから俺が迎えに行った」
「何、勝手なことしてんだよっ!!」
「そんな目くじらを立てるようなことでもないだろ」
そんなことは百も承知だ。迎えに行くぐらい、大したことじゃない。
だけど、こいつのことだ。絶対に何かしたに決まっている。
「百花ちゃんって可愛いけど、お前のタイプと違うんじゃない?」
「昔の俺と一緒にすんなっ」
「ちょっとからかったら面白い反応返ってくるし、楽しい子だよな、百花ちゃんって」
「百花、百花って勝手に呼ぶなよっ!」
「お前って、心が狭いのな」