もっと美味しい時間  

「はいっシャンプー。さっさと取ってよ」

おいおい、もうさっきと態度が違うじゃないかっ!

「あぁ……。なぁ明日香、さっきの何だよ?」

「さっきのって?」

「俺のこと“慶太郎”って呼んだろ? それにエッチとか……」

「そのこと。ちょっとお兄ちゃんをからかってみただけ」

そう言って扉を閉めると、何も言わずに脱衣場から影が消えた。
何だったんだよ。俺が“一緒に入るか? 言ったことが、あいつの気に触ったか。

しかしそのこともそれ以上は深く考えることもなく、風呂から出て寝室で着替えを済ますと、玄関のチャイムがけたたましく音を鳴らした。

「誰だよ? って、この鳴らし方は京介ぐらいしかいないか……」

まだ濡れている髪をタオルで拭きながら玄関の鍵を開けると、勢い良くドアが開き、京介にいきなり胸元を掴まれた。

「おいっ慶太郎!  女がいるってどういうことだっ?」

「な、何だよ、女がいるって……」

京介のあまりの怒りの度合いに、一瞬怯んでしまった。

「とぼけるなっ!! 百花がさっきこの部屋で、お前が女と風呂に入ってるのを見たって、お前に捨てられたって。マンション前で泣いてるぞ」

女? 一緒に風呂? 俺が百花を捨てた?
一体何のことだよっ?
この部屋のどこに、女がいるって言うんだ?

……ちょっと待て。その女って、もしかして……

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