もっと美味しい時間  

「美和ちゃん、お昼ごはんどうする? 野菜スープがあるから美味しいパンでも買ってきて食べようか?」

「いいね。下のスーパーの隣に、小さいパン屋さんあったよね?」

「あるある。じゃあ買いに行こうっ」

二人支度を整えると、早々に部屋を出た。
梅雨入りしている空はどんよりと曇っていて、今の私の心の中を表しているようだ。
それでも元気な美和先輩が一緒にいてくれることが、私をそれ以上落ち込ませることはなかった。

他愛もない話をしながら歩いて行くとあっという間にスーパーが見えてきて、その奥に古い木のドアが印象的なパン屋さんが現れた。

スーパーにはよく行くんだけど、実はここのパン屋さんには来たことがない。
ただ慶太郎さんは一人の時によく買いに来てたみたいで、『昔ながらの美味しいパン屋』だとは聞いていた。

木枠が可愛い窓からは、美味しそうなパンがところ狭しと並んでいるのが見えた。
まだ扉を開けていないのに、濃厚なバターの香りと焼きたての香ばしい匂いが漂っている。

「匂いかいだら、すっごくお腹が空いてきた」

お腹が早く食べさせろと、キュルキュル音を鳴らし始めた。

「全く百花は……」

呆れながらも笑っている美和先輩にぺろっと舌を出してみせると、木のドアをゆっくりと開けた。
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