もっと美味しい時間
カランコロンとドアベルが可愛らしい音を響かせると、奥の出入り口から60代前半と思われる、母親より少し年上らしき女性が笑顔でやってきた。
「いらっしゃいませ」
そう声を掛けられペコリと頭を下げると、パンの並ぶ棚を覗き込んだ。
あんパン、クリームパン、チョココルネ。
定番のパンたちのふんわりとした焼き上がりに見惚れながらも、その奥に鎮座している色とりどりのフルーツやクリームが乗っているデニッシュパンの輝きに目を奪われてしまう。
「慶太郎さんがね、ここのデニッシュパンがスゴく美味しいって言ってたんだ」
「うん、確かに美味しそう」
私の横に顔を寄せてそう言う美和先輩に笑いかけると、持っていたトレーに全種類のデニッシュパンを1つずつ乗せていった。
「全部買うの?」
美和先輩が驚いたような声を出す。
「大丈夫。余っても、慶太郎さんが帰って来たらきっと食べるだろうし」
それに、余らないかも!?
私が大食らいだってこと、先輩は忘れちゃったのかしら。
そんなことを考えて一人ニヤニヤしていると、美和先輩に頭を小突かれた。
結局定番のパンも数種類トレーに乗せ、またまた美和先輩に呆れ顔をされながらレジに向かうと、今度は店の奥からカゴいっぱいのクロワッサンを抱えた、これまた笑顔が素敵な男性が出てきた。
「クロワッサンが焼き上がりましたよ。いかがですか?」
レジの横の一番目立つスペースにそのカゴを置き「うん」とひとつ頷くと、レジ前に立っている女性と微笑み合いその横に立った。