もっと美味しい時間
きっと夫婦だろうその二人は見るからに仲が良さそうで、こっちまで笑顔になってしまう。
たくさんのパンでいっぱいになったトレーをカウンターに置くと、男性がひとつずつ丁寧に袋に入れてくれ、女性がレジを打った。
「すみません。クロワッサンもいいですか?」
私の言葉に、男性が満面の笑みを向けた。
「ええ、どうぞどうぞ。この店の一番人気商品なんですよ」
「そうだったんですか。美和ちゃん、今日のお昼はクロワッサンとスープにしようよ」
「いいね」
「じゃあ、4つ……う~ん、慶太郎さんも食べるかなぁ?」
レジ前で悩んでいると、女性から唐突に声を掛けられた。
「ちょっとごめんなさいね。さっきから何度か“慶太郎さん”っておっしゃってるけど、それは東堂慶太郎さんのことかしら」
思わぬところで慶太郎さんの名前が出てきて、キョトンとしてしまう。
まぁ思わぬところと言ったって、慶太郎さんも来ているお店だから知ってってもおかしくはないんだけど……。
名前を名乗るほど、よく来ていて仲良くしていたのだろうか?
「あっはい、その人のことです。よく来てるんですか?」
男性と女性は顔を見合わせると、私の顔をジッと見て何度か頷いた。
「えっ? 何か……」
「きっと貴方が東堂さんの彼女さんね?」
「そうだね。東堂さんの言っていた通りの人だ」
慶太郎さんの言っていた通りの人って。
確かに私が慶太郎さんの恋人だけど、美和先輩と一緒にいて私と言い当てるなんて……慶太郎さん、何て話したんだろう?
気になるじゃない……。