もっと美味しい時間
『百花? どうした?』
「あっ、ごめん。大きな声出しちゃって、前を歩いていた人が振り返ったから……」
『はははっ。ばーかっ!』
「そういうこと言うと、もう晩ご飯作ってあげないんだからっ!!」
『ごめんごめん。で、何で機嫌が良かったんだ?』
「そうそうっ。今日は迷わないでスーパーに着けそうだよ」
『俺の地図の書き方が良かったんだな』
相変わらず、上から目線が鼻につく。でも今日は、文句を言うのは止めておこう。
「はいはい。そうですね」
『なんだよ、今日は突っかかってこないのか?』
「もう子供じゃないですから」
いやいや、こういう態度が子供なんだよ……。いつまで経っても成長がない。
『やっぱり百花はいいな。癒される』
今の会話のどこに、癒されるポイントがあると言うんだろう……。慶太郎さんも
私にベタ惚れ? 何て、ちょっと強気なことを考えてみたりして。
『予定より少し遅くなるけど、5時までには帰る。そんなに頑張って晩飯の支度しなくていいぞ。今晩のために、身体、休めとけ』
今晩のため? それって……。
「慶太郎さんのエッチッ!!」
『いいのか? そんな大きな声で、そんな事言って』
ヤラれたっ!! 電話の向こうでほくそ笑む顔が見えるようだ。
「意地悪っ!!」
そう叫び、携帯をきる。
慶太郎さんったら、からかうにも程があるでしょっ!
赤い顔をして辺りを見渡す。良かった、誰もいない。
激しく脈打つ心臓を落ち着かせるため、ガードレールに腰掛けた。