もっと美味しい時間  

帰って来たら、文句をいっぱい言ってやろうっ!
そう心に決めると、ひと呼吸してから立ち上がる。
目的のスーパーまでは、あと数十メートル。気持ちを切り替えて楽しい買い物タイムにしなくっちゃ。
美味しい料理を作って、慶太郎さんを今よりもっともっと虜にする。
意気揚々と歩き出せば、その想いに拍車をかけるように爽やかな風が背中を押した。


スーパーに到着すると、一番に鮮魚売り場に向かう。メインの料理を決めてから、その他の材料を買うのが私のルール。
まだ時間も早いからか、新鮮な魚が氷の上にズラッと並んでいた。

「奥さんっ、今日は鯵がオススメだよっ!!」

お、お、奥さんって……。なんていい響きなんだっ!
そう遠くない未来に奥さんになる予定だし、ここはなりきって買い物しようじゃないっ!!
鯵なら、定番だけど塩焼きかフライが美味しいよね。
他には何があるかなぁ……。

「あっそうそう。シマアジも入ってるけど」

「シマアジっ!?」

シマアジと言えば最高級魚で、刺身にすると絶品。口の中にふわっと甘みが広がるんだよね。
うわぁ~、久しぶりに食べたいなぁ。
慶太郎さんは刺身も好きだし、これで決定!

「シマアジくださいっ!! 三枚おろしにしてもらってもいいですか?」

「おっ毎度ありっ。三枚おろしね」

威勢のいいおじさんが鯵を持って、裏に消えていった。
本当は三枚おろしも自分でやれるけれど、プロに任せたほうがキレイだからね。今日は時短時短。
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