もっと美味しい時間
タオルで手を拭きエプロンを外すと、そのままキッチンを出て寝室のドアの取っ手に手を掛けた。
と同時にドアが開き、体勢を崩して前のめりに倒れ込みそうになった身体を逞しい身体が支えてくれた。
「おっと。百花は朝から元気だな。身体、大丈夫なのか?」
それを慶太郎さんが聞くか!?
その原因を作ったのはいつものことながら、慶太郎さんっ、あなたでしょっ!!
抱かれている身体を離し怒った顔を見せると、プッと吹き出して笑われてしまった。
「面白い顔。でも可愛いな」
怒っていた顔がふにゃっと崩れてしまうようなことを言い、柔らかいキスを落とす。
「おはよう、百花」
「お、おはよう……」
ズルい。相変わらず、ズルい。
甘い言葉と甘いキス。私の大好物だと知っていて、言ってるに決まってる。
そして、極めつけがその笑顔。
朝からそんな嬉しそうな笑顔を見せられたら、怒れなくなっちゃうじゃない。
負けた訳じゃないけれど、何となく敗北感を感じながら慶太郎さんのパジャマの袖を掴む。
「朝食、出来てる。顔洗ってからダイニングに来てね」
「了解」
そう言って、私の頭をクシャッと撫でてから洗面所に向かう背中を見送ると、コーヒーを淹れにキッチンへと急いだ。