もっと美味しい時間  

しばらくすると、顔を洗った慶太郎さんがダイニングにやってきた。そしてテーブルの上を見て開口一番「さすがは百花」と感嘆の声を上げた。

そんな慶太郎さんに笑顔を送り、彼が椅子に座ったのを確認すると、テーブルに淹れたてのコーヒーを置いた。

「いつも思うんだけど、朝からこんな豪勢でいいのか? 百花と暮らしだしてまだ日は浅いけど、すぐに太りそうだ」

「だったら一緒に暮らすの止める?」

慶太郎さんの反応を見てみたくて、心にもないことを言ってみた。

「止めるはずないだろ」

そう言ってくれるのを分かっていて聞くなんて、私もバカだ。
こっ恥ずかしくて、顔が薄っすら熱くなる。

「ジムで体を動かしたりして管理すれば、体重増加は防げる。それに……」

「それに?」

そこで言葉を切られると、嫌な予感しか感じない。

「百花が毎晩、運動に付き合ってくれれば問題ない」

「毎晩の運動って?」

「夜の運動といえば、ひとつだろ」

ニヤリと口角を上げたその顔は……。

「もう慶太郎さんっ、その顔いやらしい! 毎日ジムで頑張ってきて下さいっ!!」

顔を真っ赤にさせて抗議すると、「最近の百花は冷たいなぁ」なんて言いながら、クスクス笑ってクロワッサンを頬張った。
その顔は、ちっとも反省してなくって……。

でも、朝のこんな時間は、私にとって小さな幸せの時間。


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