もっと美味しい時間
まだ大阪に来て一週間しか経っていないけれど、無くてはならないひとときになっている。
どうして朝食に力を入れているかといえば───
大阪支社のトップとして毎日忙しく働いている慶太郎さんの帰宅時間は、深夜になることが多い。
打ち合わせや接待で、夕食を外で済ませてくることもしばしば。
料理好きの私としては残念で、夕食を作る機会は思ったよりも少なめだった。
だからせめて一緒に食べることのできる朝食は、栄養価が高くバランスの良いボリューム感があるものをと思って頑張っている。
そして何より……。
慶太郎さんの喜ぶ顔を見たいから───
「今晩は帰りが遅くなると思う。京介も一緒に接待だ。晩飯もいらない。一度連絡をするけど、先に寝てていいからな」
「うん、分った。私も今日からバイトだよ。失敗しないように頑張るね」
「無理するなよ。じゃあ、行ってくる」
慶太郎さんがすっと腕を伸ばし私の頬を撫でると、ゆっくりと顔を近づけ“いってきます”のキスをした。
こっちに来てから始めた、ちょっと照れくさい出勤前の日課。
「行ってらっしゃい」
まだ傍にある頬にチュッとキスをすると満面の笑みを湛え、私の頭を一度撫で玄関から出て行った。
先週までの私なら、この後リビングで少しのんびりし、美和先輩が来てから動き出していた。
でも今日からは違う。
バイトとはいえ、仕事は仕事。気を引き締めていかなくっちゃ。
「よっしゃ!! 頑張るぞー!!」
一人玄関で雄叫びを上げると、威勢よく動き出した。