もっと美味しい時間
結局、シロップより甘いんです
「いらっしゃいませっ」
この言葉を言うのにも慣れ、時々失敗はするものの、一ヶ月も過ぎると何とかパン屋の店員としての風格も出来てきた。
有り難いことに、私の笑顔が好きだと言ってくれる常連のお客さんも増えてきて、毎日楽しく仕事をしている。
最近では、私が料理好きだということを知った誠二さんに、「新作の惣菜パンを一緒に作ろう」と誘われて、日夜研究中だ。
慶太郎さんの帰りが遅くなる時は晩御飯をご馳走になることもあって、まるで家族のような存在になりつつあった。
そんなこんなで忙しい日々を過ごし、バイトを始めてからもうすぐ二ヶ月が経とうとしていたある金曜日。
その日は朝から体調が思わしくなかった。いや、正確に言えば、昨日の夜からおかしかったのかもしれない。
慶太郎さんはそのまた前日の水曜日から、出張で東京に行っていた。
詳しい話はよく分からないけれど大事な会議があるとやらで、いつもはあまり緊張しない慶太郎さんが、家に帰ってきてからもその準備に余念がなかった。
帰りは土曜日───
木曜日の夜に慶太郎さんから電話がかかって来た時も、ちょっと気分が優れなかった。でも大事な時に心配させたくないし、たいしたことはないと身体のことは言わないでおいた。
きっと疲れが出たんだ。寝れば良くなるだろうと、早い時間にベッドに潜り込んだのだけど……。