もっと美味しい時間
「百花ちゃん、大丈夫? 奥で休んでたほうがいいんじゃない?」
愛子さんがさっきから、何度も何度も心配そうに私の顔を覗き込む。
「ありがとうございます。でも大丈夫。今が一番忙しい時間だし、お客さんがもう少し落ち着くまで頑張ります」
笑顔でそう答えたけれど、正直キツかった。
お腹はキリキリ痛むし頭はボーっとして、立っているのが精一杯。
それでも気合で何とかなると思ってたんだけど……。
焼き上がったパンを誠二さんから受け取り、一番上の棚に置いた途端。意識が朦朧として目の前がクラっと歪んだかと思うと、そのまま床に倒れてしまった。
「百花ちゃんっ!!」
そして、愛子さんの叫び声を最後に意識を失ってしまった。
懐かしい夢を見た───
まだ私が小学生だった頃。両親と一緒に北陸に旅行に出かけた。
ずっと楽しみにしていた旅行で、興奮からか前の晩はなかなか眠りにつくことが出来なった。そして寝不足のまま車の後部座席に乗り込んだ。
一時間ほど車を走らせた頃だっただろうか……。
父と母と三人で話をしていると、急にムカムカしてきて気分が悪くなってきてしまった。言葉を発することを止めた私に母が、
「百花どうした? 大丈夫?」
と声を掛けてくれたのだけど、楽しい旅行の最中に心配かけたくない私は、
「う、うん。大丈夫……」
と、やせ我慢をしてしまった。
でもそれがいけなかったのだろう。
昼食を取るために高速道路を走っている車がサービスエリアに入った頃には、気分の悪さはピークを迎えてしまっていた。