もっと美味しい時間  

「百花ちゃん、大丈夫? 奥で休んでたほうがいいんじゃない?」

愛子さんがさっきから、何度も何度も心配そうに私の顔を覗き込む。

「ありがとうございます。でも大丈夫。今が一番忙しい時間だし、お客さんがもう少し落ち着くまで頑張ります」

笑顔でそう答えたけれど、正直キツかった。
お腹はキリキリ痛むし頭はボーっとして、立っているのが精一杯。
それでも気合で何とかなると思ってたんだけど……。

焼き上がったパンを誠二さんから受け取り、一番上の棚に置いた途端。意識が朦朧として目の前がクラっと歪んだかと思うと、そのまま床に倒れてしまった。

「百花ちゃんっ!!」

そして、愛子さんの叫び声を最後に意識を失ってしまった。



懐かしい夢を見た───

まだ私が小学生だった頃。両親と一緒に北陸に旅行に出かけた。
ずっと楽しみにしていた旅行で、興奮からか前の晩はなかなか眠りにつくことが出来なった。そして寝不足のまま車の後部座席に乗り込んだ。

一時間ほど車を走らせた頃だっただろうか……。
父と母と三人で話をしていると、急にムカムカしてきて気分が悪くなってきてしまった。言葉を発することを止めた私に母が、

「百花どうした? 大丈夫?」

と声を掛けてくれたのだけど、楽しい旅行の最中に心配かけたくない私は、

「う、うん。大丈夫……」

と、やせ我慢をしてしまった。
でもそれがいけなかったのだろう。
昼食を取るために高速道路を走っている車がサービスエリアに入った頃には、気分の悪さはピークを迎えてしまっていた。



< 297 / 335 >

この作品をシェア

pagetop