もっと美味しい時間  

車が駐車場に停まったのを見て、トイレに行こうと身体を動かした瞬間!
車の中で派手に吐いてしまった。

「おいっ百花、どうしたっ?」

私の苦しそうな声に、運転席から覗き込んだ父が叫ぶ。
母は慌てて車から降りると、すぐに後部座席へと入ってきた。

怒られると思った私は身体を小さく丸めると、嘔吐物で痛くなった喉を震わせ小さな声で「ごめんなさい……」と呟いた。
すると母は、私が思っていたのと違う反応を見せた。

「お母さんこそ、ごめんね。百花がツラいの我慢してること、気づいてあげれなくて」

その言葉に驚き顔を上げると、母が悲しそうに私の服の汚れを拭いていてくれた。

父も私の近くに来ると、頭をポンポンと撫でてくれた。そして顔を少し怒ったものにすると、

「百花。何故もっと早く気分が悪いことを言わなかったんだ? いいか、車の中を汚したことを怒ってるんじゃない。こんなもん、掃除すれば済むことだ。でも百花の身体は、我慢したことによって取り返しの付かないことになるかもしれないんだ」

そこまで言って一度大きく肩で息を吐くと、今度は笑顔を向けてクシャクシャと撫でた。

「私たちは家族なんだ。お前は少し気を使いすぎる。もっと素直に甘えていいんだぞ。分かるか?」

素直に甘えて……か。
分ったような、分からないような……。
でも車の中の汚れを片付けていた母が手を止めて私の左手をギュっと握ると、何か温かく優しい気持ちが伝わり、ポロポロと涙が溢れてきた。




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