もっと美味しい時間
私って、全く成長してないじゃない。あの頃のまんま……。
勝手に自分で判断して良かれと思ったことで、結局周りにいた人に迷惑を掛けてしまう。
いつまで経っても子供のままで───
こんなんで、慶太郎さんのお嫁さんになってもいいのかなぁ……。
何か、自信がなくなってきちゃったよ。
『けい……たろう……』
夢の中で彼の名を呼び左手を彷徨わせれば、あの時と同じように温かい手に包まれて、ゆっくりと気持ちが落ち着き始める。
そしてまた深い眠りへと導かれていった。
強い風が窓を鳴らす音で、少しづつ意識を取り戻す。
徐々に目を開けると、薄水色のカーテンで仕切られた、狭い空間にいることに気がついた。
「病院……」
そっか。店内で倒れて病院に運ばれたんだ。
誠二さんと愛子さんに、迷惑かけちゃったな……。大丈夫なんて言っておいて、ほんと情けない。
あの後お店は大丈夫だったんだろうか。考えても今更どうしようもないことを考えて、自己嫌悪に陥る。
ジワっと滲んできた涙を拭おうと左手を動かそうとして、誰かの手に包まれていることに気づく。
それは温もりと鼓動が慶太郎さんと似ていて……。
もしかしてっ───
「慶太郎さんっ!!」
重い身体を少しだけ起こし、手が握られているその先を辿ると、そこには……。