もっと美味しい時間  

もう一人の店員さんに後で取りに来ることを伝え、魚売り場をあとにする。
次に向かうのは野菜売り場。
冷蔵庫の中の、あの高そうな牛肉を使って、牛肉の八幡巻きを作ろうと思う。新牛蒡を使えば、そんなに時間を掛けて牛蒡を茹でなくてもいいし、あの甘辛い味が食欲をそそるんだよね。
あとは、具だくさん味噌汁!
余った牛蒡に人参、里芋に玉葱。冷蔵庫にあった葉もの野菜に豆腐も入れれば豪華な食物繊維たっぷりの一品になる。
それぞれを手にとって、良さそうなものを見つけるとカゴに入れる。そして魚売り場に舞い戻ると、さっきのおじさんが手を振って待っていてくれた。

「奥さん、三枚におろししといたよ」

それを受け取ると一言、

「こんな可愛い奥さんなんて、旦那が羨ましいねぇ~」

「そ、そんな可愛いなんて……。ありがとうございました」

照れくさくなって、急いでその場を立ち去る。
冗談で言っているのは分かっていても、顔が赤くなってしまう私って……。
こんな顔のままレジに行くのも恥ずかしくて、買う予定じゃなかったお菓子や飲み物もカゴに入れてしまう。
そしてレジで会計を済ませ、エコバッグにそれらを入れている時に気がついた。
そんな遠い距離ではないとはいえ、重たいものを買いすぎてしまったと。
うぅ~、ショック……。
でも買ってしまったものは今更どうしようもない。
二袋に分け重さを分散すると、「よいしょっ」と掛け声をかけてその二つを両肩に掛けた。
右肩には人参、里芋、玉葱の重み。左肩には飲み物の重みがズシッとかかる。

「失敗したなぁ~」

いくら慶太郎さんの為とはいえ、もう少しよく考えるべきだった。
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