もっと美味しい時間  

「おぉっ!?」

その人物に驚きすぎて、おっさんみたいな声が出てしまった。
嘘でしょっ!? 何で明日香さんが、私の手を握って寝ているの?
ピクピクと微かに指を動かすと、その動きを感知した明日香さんが「ううん……」と小さな声を発して目を覚ました。

焦点の合わない目で、私のことをジッと見つめる明日香さん。
私も、そんな彼女から目を離せない。
お互い見つめ合ったまま数十秒……。

と突然、病室内に金切り声が響き渡った。

「ああぁぁぁぁーっ!! あ、あなた、いつ起きたのよっ! さっさと手、離しなさいよねっ!!」

慌てて手を振り、私の手を跳ね除けた。
その行為に驚きながらも何となく可笑しくなってしまい、クスクスと笑ってしまう。

「な、何笑ってんのよっ?」

真っ赤な顔をして憤慨しきりのようすの明日香さんを見て、増々笑いが止まらなくなってしまった。

「だ、だって……明日香さん……が、あまりにも可愛くって」

「可愛いって……」

明日香さんが、言葉に詰まる。

「だって明日香さん、『さっさと手を離しなさいよ』と言ったけれど、私が握っていたわけじゃないでしょ? 明日香さんの方が、優しく労るように握っていてくれたんだもの」

「そ、それは……」

更に顔を赤くすると、その顔を見られないようにするためか、後ろを向いてしまった。





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