もっと美味しい時間
そしてそのままの姿勢で言葉を続けた。
「勘違いしないでね。貴方がお兄ちゃんの名前を呼びながら、ずっと手を上げてたから、しょうがなく握っただけ。だたそれだけだからっ!」
ムキになってそう言うと、黙ってしまった。
でも不思議。私の手を握ってくれていたのは明日香さんだったのに、慶太郎さんと間違えてしまうなんて。
やっぱり慶太郎さんと同じ血が流れている、兄妹だからだろうか。
温もりや鼓動の音の伝わり方まで同じなんて……。
きっと明日香さんも、心根の優しい人なんだと思う。
でも突然現れた“兄の婚約者”という私その存在が、すぐには受け入れられなかったのだろう。
私には兄妹がいない。
これは優しい兄を持った妹にしか分からない、複雑な気持ちなのかもしれない。
だとしたら、私のことを無理に分かってもらうんじゃなくて、時間を掛けてゆっくりと打ち解けていくしかないのかなぁ……。
「でもどうして、明日香さんがここにいるんですか?」
「あぁ、それはね……」
そう言うと諦めたかのように溜め息をついて、こちらに向き直す。
そしてちょっと澄ましたような顔を見せると、腕を組んだ。
「たまたまこっちに仕事で来てたのよ。そこにお兄ちゃんから電話が掛かってきて、『すぐに病院に行ってくれっ!!』て。こっちの事情もお構いなしに、全く迷惑な話しよね」
「すみません……」
ゆっくり身体を起こすと、ペコリと頭を下げる。