もっと美味しい時間  

それを見て苦笑する明日香さん。
うん? 何だか私に対する目線が、柔らかくなったような……。

「ところで気分の方はどうなのよ?」

「ちょっと身体が重たいけれどお腹も痛くないし、倒れた時みたいな気分の悪さは無いです」

「そう、なら良かった。私もここに来てから、まだ何も話し聞いてないの。あなたの目が覚めたら教えて欲しいって言われてるから、ちょっとナースセンターまで行ってくる」

そう言って立ち上がった明日香さんの袖を、無意識のうちに掴んでしまった。

「な、何よ?」

「あっ、ごめんなさい。えっと……その、明日香さんが来てくれたということは、慶太郎さんはやっぱり来れない……ってことですよね?」

「何、私では不満足?」

鋭い視線で、ギロっと睨みをかます。
そういうところ、慶太郎さんに似てるわ……。

「いえいえっ、滅相もないっ!!」

顔と手をぶんぶん振って、愛想笑いをした。

「百花さんって、案外面白い人なのね。お兄ちゃんがあなたのことを好きなの、ちょっと分かるような気がしてきた」

「えっ? それって私のことを……」

「だから勘違いしないで。オモチャとしてってことよ」

オモチャ? それってどういう意味ですか?
頭の中にいろんなオモチャを思い浮かべて、「あっ!!」っとその意味が分かった時には、もう病室内に明日香さんの姿はなかった。

あの兄妹、侮れない───







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