もっと美味しい時間  

病室に一人になると頭の中に浮かんでくるのは、やっぱり慶太郎さんの顔。
仕事なんだからしょうがないと分かっているのに、身体が弱っている時はどうしても会いたくなってしまう。

「ギュっとしてほしいなぁ……」

会社のトップとして働いている慶太郎さんの妻になるというのに、たった三日会えないだけで、ついつい甘えた言葉が口をついて出てしまう。
はぁ~と大きな溜め息をつき横を向いたままベッドに倒れ込むと、柔らかい枕に顔を埋めた。

目を閉じると、廊下をパタパタ歩いてくる音が聞こえてきた。それがだんだん近づいてきて、私の部屋の前で止まった。

「目が覚めたって?」

バタンっと派手に扉を開くと、髪はボサボサで無精髭を生やした男性が入ってきた。白衣を着ているところを見ると、ここの先生だとは思うんだけど……。

その姿に呆気にとられていると、ベッドまでやってきたその人が、いきなり私の腕を握った。

「ぎゃっ!! 何するんですかっ!?」

部屋に誰も居ないことをいいことに、このまま押し倒されて……。
百花っ!! 絶体絶命のピンチっ!!
恐怖から目をギュっと瞑ると、頭上から降ってきた声は、とても穏やかなもので。

「心拍を計ろうと思ったんだけど? ダメだった?」

そ、そうだよねぇ~。まさか先生が、患者を襲うわけ無いよねぇ~。
自分の早とちりな考えに顔を真っ赤にすると、それを見た先生が大笑いし始めた。
< 303 / 335 >

この作品をシェア

pagetop