もっと美味しい時間  

「キミ面白いね。慶太郎の奴が、羨ましいよ」

大笑いしながら涙流して面白いって言われても、全然嬉しくないんですけどっ!
でも今この人、『慶太郎の奴』って言ったよね?
ってことは、この人もまさか……。

「この方は、曽我部司(そかべ つかさ)先生。お兄ちゃんの大学の時の友だちなの」

先生の後ろから顔を出し、明日香さんがそう説明してくれた。

「あいつから慌てて電話かかって来るもんだから、何事かと思ったんだけど。こんな可愛い婚約者なら、あいつの慌てぶりも納得だ」

そんな、可愛い婚約者だなんて……。嬉しくて、でも照れくさくて、俯きがちに布団に指先でのの字を書いていると、明日香さんの厳しい言葉が飛んできた。

「司さん。あんまりこの人を褒めないほうがいいですよ。すぐ調子に乗るから」

私にあっかんべーをしてみせると、先生の後ろに隠れてしまった。

「明日香さんっ! 私、調子になんか……」

興奮してそう訴えると、曽我部先生に「まぁまぁ」と肩を叩かれてしまった。

それにしても、行くとこ行くとこ慶太郎さんの知り合いがいるなんて。
この街のあらゆるところに、彼の息のかかった人がいるんじゃないのっ!? と思ってしまうほどだ。

恐るべし、慶太郎。

恐るべし、大阪の街───
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