もっと美味しい時間
部屋に入ると、梅雨特有のジメッとした空気が室内を占拠していた。
クーラーのリモコンでドライのボタンを押すと、徐々に部屋の空気がさらっとしたものに変わる。
美和をソファーに座らせると、コーヒーを淹れるためにキッチンへと向かう。
しかし何となく飲み足りない気分でいる自分に気づき、美和に声をかけた。
「美和さん、もう少し飲みませんか?」
ソファーに座り手持ち無沙汰にしていた美和が顔を上げると、ニコッと微笑む。
「はい、私も飲みたい気分でした」
そう言って頬をピンク色に染める美和は、艶っぽく美しい。
その姿に意識をとられながらも、飲み物の準備をする。
日本酒が飲みたいという美和の注文に、冷蔵庫からよく冷えていたとっておきの冷酒を取り出した。
「日本酒が好きなんですか?」
「ええ。実家が日本料理店を営んでまして、慣れ親しんだ味なんです」
そうか。だから女性らしい身のこなしができるのか。
ちょっとした所作に人柄が現れると言うけれど、正しくその通りだと思った。