もっと美味しい時間
『百花か? もう家に着いてるだろうな?』
「……まだ……」
『はぁっ!? 今どこだよ?』
「分からない……」
我慢していた涙が頬を伝う。
『そこがどこだか、わかるもん近くにない?』
そう呆れ声で聞かれ、バス停に書かれていた地名を伝える。
『すぐそこにタクシーを行かせるから、じっと待ってろよ』
「うん……」
自分の不甲斐なさと、忙しい慶太郎さんに迷惑をかけてしまった申し訳ない気持ちで、涙が止まらない。
『俺が迎えに行ければよかったんだけどな。ごめん』
「慶太郎さんは、悪く……ない」
『なるべく早く帰るから』
優しい声が胸に響く。
電話を切ると、少し気持ちも落ち着いてきて、バス停のベンチに腰を下ろした。
はぁ……。いい歳して、何やってるんだろう。こんなんだから、いつまでたっても慶太郎さんに子供扱いされるんだ。
まだ乾ききってない頬の涙を手で拭うと、姿勢よくベンチに座り直す。
よしっ!! これからはいろんな意味でスキルアップ出来るように、仕事力も女の魅力も上げるぞっ!!
ガッツポーズさながらに手を高く振り上げ立ち上がると、一台の黒塗りの車が目の前に停まった。