もっと美味しい時間
握りこぶしを手に心でそう誓っていると、抱かれている肩をポンポンと叩かれる。顔を上げると、私の決意を後押ししてくれるような笑顔で微笑み歩き出した。
「京様も帰ったかなぁ」
「多分な。って百花、京介のことを“京様”って言うのは止めないか?」
「えぇ~。他にいい呼び方ある?」
「普通に“櫻井さん”でいいじゃないか」
「あの人、櫻井さんって感じじゃないし……」
「なんだそれっ!? 百花のその感覚、俺には分からん」
呆れたように「勝手にしろっ」と言うと、頭をコツンっと小突かれる。
二人じゃれ合い、くだらない話をしながら歩く夜道。さっきまで寒さを感じていたのに、今は全くと言っていいほど寒くない。それどころか、密着している慶太郎さんの体から伝わる熱で、心も体もポカポカだ。
まだまだ不安なことはたくさんあるけれど、私の肩を抱く慶太郎さんの腕が、今の寒さも、ちょっとしたことで沈んでしまいそうになる気持ちも包み込んでいてくれるから大丈夫っ!!
「腹減ったな」
「うん、お腹減った。戻ったらすぐ用意するよ。あっ!! お刺身出しっぱなしだったよね? 大丈夫かなぁ……」
「じゃあ急ぐか?」
そう言って、徒競走のスタートポーズをする慶太郎さん。
「うんっ! 走るのは負けないからっ!!」
チッと舌打ちし「お前、陸上部だったな」と言って頭を掻く慶太郎さんを見ると、二人一斉に笑顔で走り出した。