もっと美味しい時間
俺と西園寺綾乃が知り合ったのも、大学のゼミだった。
そこで異彩を放っていたのが綾乃だ。
持ち前の実力を遺憾なく発揮しリーダー的存在だった彼女と最初こそ絡むことはなかったが、京介と仲が良くなるといつの間にか近い存在になっていた。
気になっても自分から告白できないでいると、京介が救いの手を差し伸べてくれた。今となっては情けない話だが……。
付き合うようになると、自分が持っていない自信溢れる物の言い方や立ち振舞にどんどん惹かれていった。綾乃のといることで、自分が変わっていくのを感じ、ゼミでの発言が増えると周りの奴らが「何があった?」と驚く程だった。
奥手だった俺が、初めて身体を重ねたのも綾乃だ。
普段は勝気な綾乃が、ベッドの上では甘えるように乱れる様は、形容しがたい悦楽の時間だった。
しかし俺にとって綾乃は永遠だと思い始めた頃、卒業後のことでちょっとした衝突した。彼女は大学院へ行くと言い出し、俺も一緒にどうだと誘ってきた。けれど俺は、卒業したら大阪を離れるつもりだったし、まだ内定はしていないが就職先も決めていた。
その事を伝えると、「私との関係はどうなるの?」と責め寄ってきた。
よくあるパターンだ。
「別に離れていたって付き合うことは出来るだろう?」と言っても、綾乃は納得しなかった。「恋人同士は離れていたらダメになる」と……。
そして卒業後、東京と大阪で離れて生活すると、だんだん会える日も連絡するのも減っていき、半年後には綾乃の言う通りになってしまった。