もっと美味しい時間  
フルーツパフェが教えてくれたこと

「美和先輩、はいっ、お土産」

「こんなにたくさん、いいの?」

「いつもお世話になってますから」

「なぁ藤野、俺には?」

身体を寄せて聞いてくる寺澤くんに、ボディーブローを一発。

「うっ……イッテーッ!! 藤野、マジは止めて……」

薄っすら目に涙をためている寺澤くんに、堪えきれず笑ってしまった。

「あははっ、寺澤くんごめん。でも、いきなり近づくのはちょっとね」

「いきなりじゃなきゃ、いいの?」

「怒るよ?」

いつもの光景、やりとりにホっとする。




大阪から帰る夜、駅のホームでひと目も憚らずキスをかわすと、強く抱きしめられた。

「今回は本当に悪かった。こんな思いのまま帰したくないんだけど……」

「大丈夫。慶太郎さんを信じてるし、またすぐに逢いに来るし」

慶太郎さんの胸に顔を擦りつけると、小さな声で呟いた。

-----「もっと強くなるから……」-----

思いを胸に刻み付けるように……。
その声が聞こえたのか、慶太郎さんの私を抱く腕の力が増した気がした。

なのに家に着きベッドに倒れこむと、弱い自分が顔を出してしまう。
また綾乃さんが慶太郎さんの所に来てないかなぁ……とか、綾乃さんに迫られたら、慶太郎さんの気持ち揺らいじゃわないかなぁ……とか。
挙げていけば止まらない不安に、胸が押しつぶされそうになってしまう。

「ダメダメッ!! こんなんじゃ、あの綾乃さんには勝てないよっ」

手に拳を握りしめベッドから立ち上がると、冷蔵庫へと向かう。

「腹が減っては戦はできぬ……だよね」

こんな時でもお腹が空いてしまう自分に苦笑する。
でも料理をして美味しい物を食べている時は、不安も思い出したくないことも全部忘れていられるから……。







< 56 / 335 >

この作品をシェア

pagetop