もっと美味しい時間  

終業時間を告げる音楽が流れると、美和先輩が席を立ち背伸びをした。

「あぁ~疲れた。今日は真面目に仕事しちゃったよ」

そんなこと大声で言わなくても……なんて思っていると、同じ事を思ったのか高垣課長が珍しく大きな声を上げた。

「若月っ!  普段から真面目に仕事しろっ!!」

おぉっ!  高垣課長でもそんな声出るんだっ。ちょっと感心して頷いていると、美和先輩に書類で頭を叩かれてしまった。

「百花っ。何頷いてるの? 仕事、終わりそう?」

持っていた書類をペラペラ捲る。
慶太郎さんが大阪に行く前、私に任せた最後の仕事が思いの外よく出来ていたからか、最近は私ひとりに任される仕事が増えていた。誰かの手伝いじゃない仕事はやり甲斐はあるけれど、責任が大きくなって気が抜けない。
慶太郎さんが課長の時も残業は当たり前のようにしていたけど(わざとヤラされていたと言ったほうがいいかも……)、今も定時で終わる日はほとんどなかった。

「う~ん、まだ1時間くらいはかかるかなぁ。寺澤くんは?」

「俺も、もう少し……」

この課に来てからも外回りが多い寺澤くんは、私なんかよりも忙しそうだ。普段の、軽くて明るいイメージとはまるで違う真剣な顔つきで机に向かってる姿は、ちょっと素敵……だったりする。
なんて慶太郎さんに言ったら、どんなお仕置きが待ってるか……。
怖い怖い。

「じゃあ先にあがって休憩所でお茶してるわ」と言う美和先輩に手を振ると、残りの仕事に集中した。
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