もっと美味しい時間
美和先輩が手配していてくれたタクシーに乗り込み着いた店は、落ち着いた佇まいの料亭。
先輩のことだから、イタリアンか居酒屋だと勝手に思い込んでいた私は、かなり驚いた。
「百花、何て顔してるの? 和食、ダメだった?」
「えっ? 違いますっ。和食、大好きですよ! 料理の勉強にもなるし」
「今日はゆったり個室で……のが、いいと思ってね。寺澤、うるさくしないでよ」
「だからっ!! 俺だって、どこでもうるさい訳じゃないっつーのっ」
美和先輩が「はいはい」と寺澤くんをなだめていると、店の中から綺麗な女性が出てきた。
「ご予約の若月様でございますか?」
愛想良く微笑む女性に目を奪われる。
美和先輩と何かをコソコソ話すと、店内へと招き入れられた。
綺麗な人の後について隅々まで手入れされている廊下を進んで行くと、中庭が見える素敵な個室に案内される。
思わず「わぁ~」と声を出してしまうと、美和先輩にチラッと睨まれた。
「勝手に申し訳ないけど、料理はお任せで頼んでおいたから」
「あ、ありがとうございます」
何となく場違いな感じがして小さくなっている私と寺澤くんを見て、美和先輩がクスクス笑い出した。
「そんなに緊張しなくていいのに。もう、しょうがないなぁ~。ここ、私の実家なの」
「「えぇーーーっ!!!」」
私と寺澤くんの驚いた声が、店中に響き渡った。