もっと美味しい時間  

うぅ……。なんで私が、こんな男と二人っきりで車内にいなきゃなんないんだっ!! 
慶太郎さん、こうなることは想定しなかったのかなぁ……。
はあ~とため息をつくと、運転席の嫌味な男が喋りだす。

「ため息つくなよ。辛気臭くなるだろーがっ」

「そんなこと、私の勝手でしょ」

「気の強ぇー女。可愛げないな」

「…………」

この人と話してると、気分が悪くなる。
また無視を決め込み窓から外を見ると、煌びやかな街の明かりが流れていく。この街のどこかに慶太郎さんがいるんだ。早く逢いたい……。
そんな思いが、自然と頬に涙を伝わせた。その冷たさに気づき、バッグからハンカチを取り出すと、その手を取られる。

「何するのっ。離してっ!!」

「へぇ~。あんたでも、そんな綺麗な涙、流せるんだ。何かちょっと、あいつの気持ちが分かったかも」

何言ってるんだか、全く理解できないんだけどっ。
それと、勝手に慶太郎さんの気持なんて分かるなっ!!
おもいっきり腕を上げ、櫻井京介の手を振り払うと、人差し指をさしてキッと睨んだ。

「あなたが慶太郎さんとどんな関係か知らないけど、いい加減なことばかり言わないで下さいっ」

「別に、いい加減なこと言ってるつもりはないんだけどなぁ」

「その言い方がムカつくのっ」

「そんなに俺のことが気になる?」

あぁ……神様っ。この世に、こんな意味不明な男がいるなんて……。私には手に負えません。早く私を解放して下さいっ!!
両手を握りしめ胸に当てると、そう祈りを込めた。
って、私クリスチャンじゃないんだけど……。

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