もっと美味しい時間
階段を下りると京介の姿が目に入る。また私にでも電話しているのか、携帯を耳に当てていた。
「京介さんっ」
そう呼びかけると、少し驚いたような顔をしてこっちに振り向いた。
掛けていた電話を切ると、私たちの方へ歩いてくる。
「お待たせして、すみません」
息を切らしながら謝りの言葉を入れると、フッと鼻で笑われてしまった。
「何、使い慣れない言葉使ってんだ。あんたらしくない。それに名前……」
「だって京様は嫌なんでしょ? 私だって、普通に話せるんですっ!!」
ベーッと舌を出し怒ってみせると、やっぱり頭を撫でられてしまった。
慶太郎さんといい京介といい、いつまでたっても子供扱い……気にいらない。
「百花、そうやってムキになるから子供扱いされるんだよ」
さすがは先輩、私の心を読むのが上手いのね。
「分かってるんだけどさ……。あっ京介さん。こちらは私がお世話になってる先輩で若月美和さん」
「はじめまして、いつも百花がお世話になってます」
おぉっ! 先輩がいつにも増して素敵な女性に見える。
これがさっきまで、鬼の形相で寺澤くんに厳しく当たっていた人と、同一人物とは思えない。
そして美和先輩の優雅な立ち居振る舞いに、京介の目がキラリと光ったのを、私は見逃さなかった。
「いえいえ、こちらこそ。わたくし大阪支社で秘書課主任をしております、櫻井京介と申します」
そう言って手を差し出すと、二人が軽く握手を交わした。
わあぁ~、何て絵になる二人なのかしら……。
その姿をうっとり見入っていると、京介の檄が飛んできた。