もっと美味しい時間  

大阪駅のホームに降り立つと、う~んっと身体を伸ばす。

「いいご身分だな」

「すみません……」

京介の嫌味にカチンときながらも、頭をペコリと下げた。
なぜ私が頭を下げたって?
それはね……。

新幹線の中で、私たちは殆ど会話をすることはなかった。
京介は手に持っていた経済雑誌を、真剣な顔をして読んでいた。それをちょっと覗いて読んでみると、『時代の課題に挑む、科学的社会が……』とか『歴史的激動の時代が提起する諸問題の……』なんて、私には意味不明のことだらけ。
京介に「これって意味分かってて読んでるの?」と失礼極まりないことを聞いたら、

「分からないで読むバカがどこにいるっ!!」

って、予想通り怒られた。
で、シュンとおとなしく横で座っていたら、だんだん睡魔に襲われて……。
まもなく大阪駅に到着するというアナウンスで目を覚ますと、何を血迷ったか、京介に身体を預けるようにダラーンと寝ていたわけでして……。

「あ~あ~、肩が凝ったなぁ~」

「もう、そんなイジメなくてもいいじゃない……」

だって、することなかったんだもん。
項垂れてとぼとぼ歩いていると、京介が腕時計で時間を確認しながら私の横を通り過ぎた。

「まだ時間あるから、喫茶店入るぞ」

そう言うと、私を置いてどんどん引き離し歩いて行く。

「ちょっと待ってよ、京介っ!」

「お前が遅いんだよ」

そんなこと言ったってしょうがないでしょっ!! 私と京介とじゃ、歩幅が全然違うんだから。
大急ぎで歩いてやっとの思いで追いつくと、目の前の喫茶店に入った。

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