もっと美味しい時間
「今日はあんたもいるし、裏手の方の駐車場に止める。まっ本社の人間だし、コソコソする必要もないんだけどな」
確かに本社の人間だけど、今日は私用だ。堂々と正面ってわけにはいかない。
京介に話しを聞いて勢いで来てしまったけど、本当に良かったのかしら……なんて、今更ながらに思ってしまっている。
「そこ大阪支社ね」
指差した方を見ると、パンフレットで見るよりもかなり立派な社屋が建っていた。
ここの一番偉い人が慶太郎さんなんだ。
私が婚約者なんて、身分違いもいいところだよね……って、ダメダメ!!
今そんなことで落ち込んでどうすんのっ、私っ!!
頭を大きく振って弱虫な自分を吹き飛ばすと、両手で顔を二回叩いて喝を入れる。
「やっぱり面白い」
京介のその言葉、もう何回聞いたっけ?
でも何だか悪い意味ではないみたい。彼にとっては、褒め言葉?
もしかして、私のことを好きだったりしてっ!?
あはっ、それはないかっ!
「そのアホ顔、何とかしろよ」
絶対に好きじゃないよね……。
頬を撫でて顔を整えると、京介を見た。
「私、綾乃さんに負けてない?」
「それ、どういう意味で? 容姿? 頭脳?」
「聞いた私がバカでしたっ!」
フンっと横を向くと、京介が笑い出す。
「お前の良い所は、素直なところだな。可愛いと思う。そこに慶太郎も惚れたんだろ。勝ち負けじゃない、分かるか?」
「可愛いって……」
京介の口からそんな言葉が出るとは思っていなくて、一気に顔が赤くなる。
こんな時にからかわないで欲しいよ、まったく……。