もっと美味しい時間
駐車場に車が停まると、深呼吸をひとつする。
スッと気持ちが引き締まった。
「俺、電話してから行くから。そこの路地通って出たところで待ってて」
「分かった」
荷物を持ち車から降りると、指差された方に歩き出す。
駐車場を出て小道を覗くと、隣のビルとの間に薄暗い路地があった。
言われた通り表の大通りまで歩いていると、路地出口手前の少しだけ広くなっているスペースに人影を感じた。
二人いる?
後ろを振り向くが、まだ京介は来ていない。
不安を感じながらも、ゆっくりと足を進める。
近づく人影。しばらく進むと、小さいながらも声が聞こえたきた。
「どうして私じゃダメなの?」
ひとりは女性か……。
話の内容からして、もう一人は男性だろう。
こんなところで別れ話なんかしないでよっ! なんて思いながらも不審者じゃないことに安堵すると、男性の声を聞いて足を止めた。
「ダメとかそういうことじゃなくて……」
今の声、まさか慶太郎さん?
私が彼の声を間違えるはずがない。今のは絶対に慶太郎さんだっ!
と言うことは、相手の女性は綾乃さん?
いやっ、ちゃんと確かめるまでは分からない。
急速に鼓動が速くなっていく。
二人じゃないことを祈りながらもそれを確かめるため、足音をたてないでゆっくり前に進む。
薄暗さにも目が慣れ、路地に少しだけ日差しが入り込むと、姿がハッキリと見えた。