もっと美味しい時間
「……っ!!」
声が出そうになるのを、必死に手で押さえて堪える。
そこにいたのは、紛れもなく慶太郎さんと綾乃さんだった。
他人で有って欲しいという希望は、呆気なく吹き飛ばされてしまった。
慶太郎さんは綾乃さんの両肩に手を乗せ、綾乃さんは慶太郎さんの腰に腕を回して身体を寄せている。
この光景は、どういうこと?
すぐに二人に駆け寄って、『何してるのっ? すぐに離れてよっ!』と言いたいのに、足がまったく動かない。
その場所に根が生えてしまったように立ち尽くしていると、絶対に見たくなかったことが起きてしまった。
「ずっと慶太郎が好き。他の人なんて考えられないっ!」
綾乃さんがそう叫ぶと、慶太郎さんにキスをした。
それを、慶太郎さんは避けることなく受け入れている。
異常なほど速くなっていた鼓動が、一瞬止まる。息をするのも忘れ、ただただ見つめていると、後ろから京介の声がした。
「まだ、そんなところにいたのかっ。さっさと行く……」
私の様子が可怪しいのに気づいたのか、そこまで言うと私の横に立ってその先を見つめた。
「慶太郎、そこで何してる?」
京介の声で人がいることに気づいた二人が、身体を離してこちらを向く。
「京介に……百花? なんでお前がここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフだろっ!! お前ら、そこで今何してた?」
「何って……」
すぐに答えられないようなこと、してたもんね。
そりゃ、困っちゃうよね。
相手は慶太郎さんなのに、まるで他人事のような言葉しか浮かんでこない。
この場所は、薄暗い上に息苦しい……。