もっと美味しい時間  

どれくらい走り続けただろう……。
そして、今自分がどこにいるのかも分からない。
そりゃそうだ。まだ全然地理が分かっていない、大阪にいるんだから。

そんなことを考えていられる、冷静な自分に驚く。
なんか、前にもこんなことあった気がするんだけど……。
あっそうかっ!!
昨年、慶太郎さんが倉橋さんとお見合いするって話しを聞いた時、その場から走って逃げたんだったっけ。
あの時は確か、寺澤くんが走って追いかけてきてくれたんだった。
一人になりたかったんだけど、いっぱい泣いて、話を聞いてもらって、スッキリしたのを覚えている。
『好きだ』と告白されてしまったのは、予想外だったけど……。

小さな公園を見つけると、ブランコに乗る。
小学生だったころ以来だろうか……。
足を振りブランコを漕ぎだすと、キーキー派手な音を鳴らし始めた。

「この音、懐かしい……」

センチメンタルな気分になっているのか、涙が一筋流れた。

「バカみたい」

この涙が、小さい頃を思い出しての涙なのか、それともさっきのシーンを思い出しての涙なのかは分からない。
でも、一度流れだすと止まらないのは、いつものことだった。

「私って、いつも逃げて走ってばっかり……」

日が沈みかけて、夕焼け色に染まっている空を見上げそう呟くと、漕いでいたブランコのチェーンを誰かが掴んだ。

「きゃっ!!」

いきなりのことでバランスを崩しブランコから落ちそうになるのを、その人が支えてくれた。

「ごめん。大丈夫か?」

あれ? この声って?
慌てて顔を上げると、そこにいたのは……

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