もっと美味しい時間
「京介……」
前に走って逃げた時は、追ってきてくれたのが慶太郎さんじゃなくて少し落ち込んだけれど、今日は京介で正直ホッとした。
ずっと走っていたのか、かなり息が切れている。
「はぁ……お前……足、早い……な……はぁ、はぁ」
寺澤くんと同じ事言ってる。
「もしかして……陸上部……だったとか?」
少しづつ呼吸が落ち着き始めると、隣のブランコに座った。
「うん、短距離の選手」
「俺もなんだけどなぁ。やっぱり30超えると体力落ちるなぁ~」
「私だって、かなりタイム落ちてると思うよ」
泣き顔を見られたくなくて俯いたまま話していると、ブランコを下りた京介が私の前にしゃがみこんだ。
「泣いてたんだ」
「…………」
「慶太郎じゃなくて、ごめんな」
いつもの京介じゃない声に、顔を上げた。京介が悲しい顔をしている。
「俺が余計なこと言わなければ、大阪に連れて来なければ、あんな場面見ることなかったのに……。悪かったな」
京介のせいじゃない。京介が謝ることなんて何一つないのに……。
「ここに来てくれたのが京介で、安心したんだよ。謝らないで」
素直な気持ちを伝えると、京介がホッとしたように微笑んだ。