もっと美味しい時間
でも今は、何が何でも頑張ってやるって思っていた、自分の気持ちにさえ勝てそうにない。
あのキスは、綾乃さんの一方的なキスだった……と思う。でも慶太郎さんはそれを遮ろうとはせず、そのまま受け入れていた。
私があそこに着くまでの時間、二人の間にどんな経緯があったかは分からない。だけど、私が聞いた言葉だけで判断すれば、たぶん私とは分かれないと言う話しをしていたんだと思う。
だから、付き合えないから、“ごめん”の代わりにキスを許したの?
京介が「何をしていたっ」と聞いた時、何ですぐに答えなかったの?
それは、綾乃さんを庇ったってことなの?
何か、やましいことがあったの?
まだまだ聞きたいことはたくさんある。
でも、会いたくない、顔も見たくない……。
でも、ぎゅっと抱きしめて「百花だけだ」と耳元で囁いて欲しい……。
矛盾した気持ちが、頭の中をグルグルと駆け回っていた。
自分でも、どうしていいのか分からない。
「悪い、余計なこと言ったな」
「ううん、気にしないで。大丈夫だから」
京介に、これ以上は心配を掛けたくない。
だから今は笑っていよう。できるだけ普段通りに。
心の中でそう決めるとブランコから立ち上がり、京介の手首を掴んだ。
「じゃあ今晩は、京介の部屋にお世話になります」
「お、おう……」
いきなり手首を掴まれ焦る京介を、引っ張って歩き出す。
これからのことは、今晩布団の中で考えよう。
答えが出るかは分からないけれど……。
少し気分も晴れてズンズン勢い良く歩いていると、あることに気がつき足を止めた。
「ごめん京介。ここってどこ?」
この後、立場が逆転したのは言うまでもない。