もっと美味しい時間
「腹減ったなぁ。飯食ってから帰るか? それとも何か買って、うちで食べるか?」
う~ん。出来るだけ京介の部屋での、二人きりの時間を増やしたくない……かな。別に、何かされると思ってるわけじゃないけど、緊張するというか居た堪れないというか。きっと落ち着かないと思うんだよね。
「食べてから帰ろう」
「分かった」
一言そう言うと、運転手さんにお店の名前を告げ、そこへ向かうようにお願いした。
店名だけで分かるということは、有名なお店なんだろう。
京介も慶太郎さんと一緒で、接待なんかで良い店に行っていそうだから期待できる。
お腹はペコペコ、気持ちはワクワク。
まるで、遊園地に連れて行ってもらう子供みたいに、窓にへばり付いて外を見ていると、お世辞にもキレイとはいえない一軒の古そうな店の前でタクシーが停まった。
「降りるぞ」
京介に言われて降りると、すぐに良い香りが鼻をくすぐる。
「お好み焼きっ!!」
「匂いだけで分かるのか?」
「当たり前ですっ。料理は、食べるのも作るのも大好きだからっ!!」
自信満々に答えると、京介より先に店の前に立った。
換気扇から流れてくる香ばしい香り。これは絶対に美味いよ。食べなくても分かっちゃうもんね。
暖簾をくぐり中に入る京介の後を追って、私も中に入る。
「おばちゃん、席空いてる?」
気軽に声をかけているところを見ると、京介は常連さんみたいだ。
外から見るより広い店内は、お客さんで溢れていた。座るところがあるか、キョロキョロしていると、笑顔が素敵なおばちゃんが奥から手招きをしていた。
「行くぞ」
京介の後をついて行くと、ここは明らかにプライベートスペースでしょ? と言うような和室へと通される。