【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~
手を出さなかったことは証明されたが、香織が聞き逃したという『幻の寝言』には、やはり記憶が無い。

香織も寝入ってしまって、僅かに聞き取れた言葉を忘れてしまったそうだ。

香織が僕の部屋へ来たときの状況や、『離さない』と言ったらしい台詞からも

彼女に聞こえなくて良かったと思う発言をしていただろう自覚は120%位ある。

昨夜の自分の状況を考えると、行動を起こさなかったのが奇跡のような気がしてきた。
良くぞ耐えたと、自分の理性を賞賛してみたくなる。

もしかして僕に遠慮して言えないだけで、本当は何かあったんじゃないかと、不安は拭いきれない。

何でもない顔をして冗談のように「僕、香織を襲わなかった?」と、笑って聞く勇気もない。

焼きたてのクロワッサンに感動している香織を見ていると、特に、昨夜の事を不快に思って、僕を嫌っている様子は無い。

これ以上質問するのは、自ら首を絞めている気もするし、このまま濁したほうが良いのかもしれない。


< 100 / 380 >

この作品をシェア

pagetop