【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~
クリスマスの近い雪の夜、香織の父、榊 俊弥は血にまみれたショールに包まれた香織を自らのコートで隠すように抱きかかえ、母の榊 六香の元を訪れた。
産まれてまだ数時間しか経たない、血だらけの赤ん坊に六香は息を呑んだ。
既に泣くことすら出来ないほどに衰弱した赤ん坊を病院へ連れて行く事を拒み、その存在を隠して欲しいと言う息子に六香は戸惑った。
本当に息子の子供なのかと疑う六香に、俊弥は間違いなく自分の子だと言い切り、娘の存在を良く思わない者がいる為、今は存在を知られるわけには行かないのだと告げた。
その夜、二人は必死で赤ん坊を温め続け、朝方なんとか小さな泣き声を聞いたときには、心からホッとした事を覚えている。
俊弥は榊の家の娘に贈られる『香』の一字を取った名を娘に与えた。
我が子を抱き、愛おしそうに『香織』とその名を呼んだ姿は、今も六香の胸に鮮やかに蘇る。
必ず迎えに来ると言い残し、俊弥は雪の中に姿を消した。
それから1週間ほどした年末の雪の深い夜、六香は俊弥から1本の電話を受けた。
自分はもう戻れない、香織を頼む。と、それだけ言うとブツリと切れ、以後息子から電話が来ることはなかった。
六香が1通の手紙を受け取ったのは、年が明け、暫くしてからのことだった。